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2013.08.26
山陽新聞夕刊「一日一題」 8月4週
自転車 
 
 私は二輪車が好きだ。自転車に乗れたのはずいぶんと奥手で小学校の2年生になってから。断じて運動神経が悪かったのではない、自転車が無かったのだ。高度成長期はモノ不足の時代。用済みになった日用品は次に必要な人のところへ貰われて行く、そんな経緯でボクの自転車もやって来た。今のように子供達が皆自分の自転車を持っていた訳ではない。だから人生最大の宝物。片時も離れず何処にでも自転車で出かけた。小学4年生、路地で車とおばちゃんが同時にやって来て、避けようとして慌てた私は転倒。転げた路面で左腕を強打し、肘と手首の間が折れてしまった。よく見ると骨が二本覗いている。あまりにびっくりし、痛ささえ感じないでそのまま初めての入院。ちょうど「静かの海」にアームストロング船長が降り立った夏で、ギブスの中の痒さまで鮮明に記憶している。宝物は取り上げられ、中学に入るまで友人の自転車を追いかけて走る生活が続いた。
東京に出てからはオートバイに凝った。エンデューロやトライアルの競技にのめり込み、アルバイトにプレスライダーもやった。28才、調子に乗って山道で転倒。今度は右肘の複雑骨折。2度目の入院。
今春、久しぶりに自転車を新調した。現在のスポーツバイクの進歩は驚くべきもので、ギア変則は電動だし、車体は片手で軽々持ち上がる。だけれど私の中古シトロエンより値が張るのはどうしたものか・・。自転車に乗るとなんだかわくわくする。目にするモノが新鮮に映り、かつ自然の力を増幅して感じる。自力で遠出する手段は様々手に入れたが、自転車ほど自分に向き合える乗り物はない。今は四国一周を企てている。もう転ばないようにしよ。
山陽新聞夕刊「一日一題」 8月4週