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2013.08.05
山陽新聞夕刊「一日一題」8月1週
8月一週 言葉
 8月に入った。旧暦では肇秋という。しかしこの陽差し、秋の始まりとはとても感じがたい。暦にみる季節の言葉はなかなか実感を伴わない。
 30代の半ばから、石切り場の一角を借りて石の彫刻を創っていた。石は包熱するため陽が当たり続けると周辺はサウナのように気温が上がり、45度を平気で超える。樹木は少なく木陰はない。その上電気が来ていないので扇風機は回せない。たまに吹く風で、置いてある工業用扇風機の羽が回るのを眺めては涼を感じる。頭がおかしくなる程暑い。「暑い」って一体ナンダ?他の言葉に置き換えたらどうなの?苦し紛れに考える。しかし作業に集中しているとあまり気にならない。暑さは「暑い」という言葉を認識してしまうから感じるのだと気がついた。つまり「暑いと思うから暑い」。仕事柄小さな怪我はしょっちゅうなので「痛い」も同様。「痛い」って何だろうと考えると不思議と痛みが遠のく(気がする・・)。しかし、誤摩化せるのは意識だけ。身体は正直に蓄えた熱でうなされる。
 私の子供の頃は運動中に水を採取してはダメ。最も有効な体力強化はウサギ跳び。ひたすら我慢!根性!今では考えられないが皆そういうものだと思っていた。熱中症なんて言葉は無かったから、暑さで亡くなる方も居たと思うが、ニュースに成らない。言葉の認識が記号化された社会現象を作り出す。真実や本当に必要なものが何か判断のつきにくいこの時代。拠り所を言葉に求めるか感性におもねるかで随分と生き方が変わる気がする。
山陽新聞夕刊「一日一題」8月1週